【応募作】テレ東ドラマシナリオ 「死んだ俺に線香を上げに来る奴がいるから、留守番しといて」(テーマ:訪問者)

本記事はnote×テレビ東京のドラマ企画「100文字アイデアをドラマにした!」の応募作です。

元となった100文字アイデア

バイトでとある家の留守番をすることになった彼は、次々と訪れる訪問者から依頼主の素性を知ることになり、事件に巻き込まれていく。

登場人物

田中ユウタ:真面目でまっすぐな性格が原因で、問題を起こして会社をクビになった。生活費を稼ぐために便利屋のアルバイトをすることに。
安村隆:ユウタに留守番を依頼した男。
渡辺敦:1人目の訪問者(男)。安村の小中高の幼なじみ。
ジェシー南:2人目の訪問者(男)。ドラァグクイーン。安村が働いていた店のオーナー。
山中美香:3人目の訪問者(女)、安村の恋人。

あらすじ

便利屋のバイトをしている田中ユウタは、安村隆から「留守番をしていて欲しい」と依頼を受ける。
家に行くと、部屋にはなぜか安村の遺影と仏壇が。安村は「俺に線香を上げに来る人を迎え入れて欲しい。夜までには戻る」と言い、出かける。
ユウタが留守番をしている間、3名の訪問者が訪れる。彼らは口々に安村のことを語るが、語る内容が人によってまったく異なり、ユウタは戸惑う。

夜、帰宅した安村に雄太が疑問をぶつけると、「どれも本当の俺だよ」と語り始める。安村の目的は一体何なのか——?

○シーン1:安村宅

 ユウタ、安村の家(ボロアパート)のインターフォンを鳴らす。手には、
 ・依頼人:安村隆
 ・依頼内容:留守番をして欲しい
 と書かれた紙を持っている。
 その映像にかぶせてユウタモノローグ。

ユウタM「俺は現在無職。思ったことを何でも言ってしまう性格が災いし、会議で役員と喧嘩をしたのが原因で、先月会社をクビになった。当面の生活費を稼ぐために、便利屋のアルバイトをしている」

安村「はーい(ドアを開ける)。便利屋の人?」

ユウタ「はい。田中ユウタと申します。本日はよろしくお願いいたします」

安村「田中さんね、入って」

 室内に入るユウタ。部屋の奥には仏壇と安村の遺影があり、それを見てユウタは驚く。

ユウタ「えっと、これは……?」

安村「俺、これから出かける予定があるんだよね。で、このあと俺に線香上げにくる人が何人かいるから、留守番しといてくれないかな」

ユウタ「え? 俺に線香上げに来るって、どういうことですか?」

安村「ごめん、もう時間だから行かないと! 君は俺の会社の同僚ってことで。何か聞かれたらテキトーに答えておいて。あ、俺が生きてるってことは言わないように!」

ユウタ「いや、状況が全然飲み込めないんですけど???」

安村「まぁテレビでも見ながらのんびりしててよ。夜までには帰ってくるから、じゃあ行ってきまーす!」

 明るく言い放ち、キャリーケースを抱え、急いだ様子で出かける安村。呆気にとられ、立ち尽くすユウタ。仏壇を見てつぶやく。

ユウタ「どうなってんだ?」

○シーン2:1人目の訪問者・渡辺敦

 テレビをぼーっと眺めながら留守番をするユウタ。インターホンが鳴り、ドアを開ける。

渡辺「渡辺と申します。この度はご愁傷様です」

ユウタ「あ、いえ、はい……中にどうぞ」

 対応に困りながらも、渡辺を迎え入れるユウタ。渡辺は仏壇の前に座り、線香を上げる。ユウタ、ちゃぶ台にお茶を置く。渡部、お茶に手をつけながらユウタに向き直り、

渡辺「ええと、あなたは?」

ユウタ「田中です、安村さんの会社の同僚の」

渡辺「へぇ、そうなんですね。どちらの会社で……?」

ユウタ「(渡辺の言葉を遮り)ええっと! 渡辺さんは安村さんとはどういったご関係で?」

渡辺「小中高の幼なじみなんです。って言っても、お互いの両親の仲がよかっただけで、俺と安村はそんなに親しくはなかったんですけど。高校中退してから定職につかないでフラフラしてるって聞いたけど、一応就職できたんですね」

ユウタ「あぁ、昔からのご友人なんですね……えっと、安村さんは学生時代はどんな方だったんですか?」

渡辺「暗いっていうか、無口で何考えてるかわからない感じでしたね。いじめられてはいなかったけど、仲良い友達もいなかったし。今日も一応同級生の何人かに声は掛けたんですけど、結局俺だけで来ることになって。ま、あんまり死んだ人間を悪く言うのもアレですけど」

 その話を聞き、不思議な表情でつぶやくユウタ。

ユウタ「無口、ですか……? さっき話したときは、そんな風には見えませんでしたけど」

渡辺「え? さっき?」

ユウタ「あ! いえ、あの、何でもありません! そうだ、お茶のお代わりでもどうですか?」

渡辺「いえ、僕はもう失礼します。では」

 渡辺、部屋を出ていく。
 ユウタはその姿を見送り、緊張がとけた様子でため息をつく。

○シーン3:2人目の訪問者・ジェシー南

 インターホンが鳴り、ドアに向かうユウタ。ドアを開けるとそこには、派手な身なりのドラァグクイーンが立っている。目が合い、固まるユウタ。2人とも無言のまましばらく見つめ合う。ユウタ、そのままドアをぱたんと閉じる。

ジェシー「ちょっと! 開けてちょうだい! 怪しいモンじゃないわよ!」

 ドンドン! とドアを叩く音と共に、ドア越しにジェシーの声が聞こえる。恐る恐るドアを開けるユウタ。ニコっと笑うジェシー。

ジェシー「こんにちは。お線香を上げにきたの。入ってもいいかしら?」

ユウタ「あ、はい、どうぞ……」

 戸惑いながらも迎え入れるユウタ。ジェシーは部屋に入り、神妙な顔で安村の仏壇に線香をあげる。ユウタ、ちゃぶ台にお茶を置く。ジェシーはユウタに向き合い、ため息をついてから話しかける。

ジェシー「急だったから、連絡をもらった時はびっくりしたわ。病気だったんですって? 知らなかった……先週ショーに出ていた時にも、全然そんな様子がなかったから」

ユウタ「ショー? えぇっと、あなたは一体……?」

ジェシー「あら、自己紹介が遅れてごめんなさい。私は、ジェシー南。ジェシーって呼んでちょうだい」

 ジェシー、ユウタに名刺を差し出す。そこには、「ラウンジバー 南 ジェシー南」と書かれており、ジェシーの写真も載っている。

ユウタ「ラウンジバー? えっと、ジェシーさんと安村さんはどうったご関係で?」

ジェシー「安村さんは、うちのお店でドラァグクイーンとしてショーに出てくれていたのよ」

ユウタ「へっ? ドラァグクイーン??」

ジェシー「そう。安村さんは女装を趣味にしていてね、週末にはドラァグクイーンの活動をしていたの。平日はたしか、証券会社にお勤めされてるって言ってたわね。
あの子、すごく人気があったんだから! ショーのあとフロアに出ると、お客さんはみんなあの子と話したがった。ほらあの子、たしかいいとこの大学出てるでしょ? 知識豊富でウィットに富んだ会話のできる、素敵な子だったわ。あんないい子が、亡くなってしまうなんて……」

 涙をぬぐいながら話すジェシー。ユウタ、不思議そうな顔で独り言をつぶやく。

ユウタ「いいとこの大学……? さっき渡辺さんは、『高校中退してから定職につかないでフラフラしてる』って言ってたけど……?」

ジェシー「(腕時計を見ながら)あっ、そろそろ行かないと! よかったらうちのお店、遊びにきてね。それじゃ」

 ジェシー、ユウタに向かってウインクし、部屋を後にする。ユウタ、不可解な表情でつぶやく。

ユウタ「どうなってんだ?」

○シーン4:3人目の訪問者・山中美香

 ユウタ、もやもやした思いを抱えた表情で部屋にいる。そこでまたインターホンが鳴る。

ユウタ「まだ来るのかよ……今度は誰だ?」

 つぶやきながらドアを開けると、そこには不機嫌そうな顔をした山中美香が立っている。

山中「山中です。入ってもいい?」

ユウタ「あ、はい。どうぞ」

 山中、無言で部屋に入り、仏壇の前に座って不機嫌な表情のまま線香を上げる。

山中「本当に死んだんだ。ふん、バチが当たったのね」

ユウタ「よろしければ、お茶どうぞ」

 そう声をかけながらテーブルにお茶を用意するユウタ。テーブルにつきお茶を飲む山中。しばし沈黙。沈黙を気まずく思ったユウタがおずおずと切り出す。

ユウタ「えぇっと……山中さんは、安村さんとはどういったご関係なんですか?」

山中「彼女。一応ね。あなたは?」

ユウタ「僕は、安村さんの会社の同僚です。田中といいます」

山中「会社……? 先月つぶれたって聞いたけど?」

ユウタ「えっ? つぶれた??」

山中「何その反応? あぁ、もしかしてあなたも騙されたクチ? 同僚って言っても、名前を貸してただけとか?」

ユウタ「えぇ、まぁ、あの……そんな感じです」

 しどろもどろになるユウタ。

山中「あの男最低ね。何が起業家よ? 大嘘つきね、私もすっかり騙されたわ。あいつ、いっつも羽振りのいいフリをしてたけど、本当は借金まみれだったんでしょ? 家に行きたいって言っても絶対に連れて行ってくれなかった。こんなボロアパートだからだったのね!」

 家の中を憎々しげに見回す山中。戸惑った表情でそれを見つめるユウタ。

山中「あいつ、いっつも威圧的で、人のことバカにしたような口ぶりじゃない? 最初は優しかったからあたしも騙されちゃってさ。だんだん本性が見えてきて、そのうち暴力もふるうようになった。怖くて別れられなくて、どうしようかと思ってたのよ」

ユウタ「そう、なんですね……意外でした」

山中「事故にあって死んだって聞いた時は、正直ほっとしたわ。あぁ、せいせいした! あなたも、安村から解放されてよかったわね。じゃ、私はもういくわ」

 部屋を出ていく山中。あっけにとられたようすのユウタ。

○シーン5:安村帰宅

 ユウタ、部屋の中で考え込む。

ユウタM「何かがおかしい。3人が話す安村さん像が、あまりにも違いすぎる。いや、そもそも本人は生きているのに、死んだことになっているのがおかしいんだけど」

安村「ただいま! あ〜疲れた」

 安村が帰宅。キャリーケースを部屋に重そうに運び入れる。

ユウタ「おかえりなさい……」

安村「留守番ありがとね。あ、これおみやげ」

 安村は土産の「箱根湯本・温泉まんじゅう」を手渡す。

ユウタ「箱根行ってたんですね。観光ですか?」

安村「まぁ、そんなとこ。最近箱根にハマっててさ、よく行ってるんだ。えっと、今日は何人くらい来た?」

ユウタ「3人いらっしゃいました。幼なじみの渡辺さんと、ラウンジバーのジェシーさん、それと、お付き合いされていた山中さん」

安村「そう。そしたら、今日でひととおり終わりかな。あ、晩メシにピザ頼んでるんだけど、一緒にどう? 酒も買ってきたよ」

 ニッコリとユウタに笑いかける安村。気味が悪くなったユウタは、

ユウタ「いえ、僕はそろそろ……」

安村「あ、金は俺が払うから気にしなくていいよ! もうピザ注文しちゃったし。一人じゃ食べきれない量だから、遠慮しないで食べてってよ」

 強引に引き止められ、しぶしぶ座るユウタ。ピザが届き、一緒に酒を飲みながら夕食をとる。

安村「田中君はさ、なんで便利屋の仕事やってるの?」

ユウタ「僕は……新卒で入った会社を、2ヶ月でクビになりまして」

安村「えっ、2ヶ月?! 何やったの?」

ユウタ「会議で、役員と喧嘩したんですよ。役員が明らかに無茶なことを言ってるのに、部長はそれを止めないでヘラヘラ笑いながら、役員のご機嫌を取っていて。それを見てたら、なんだかむかついてきて、『あなたは現場のことをまったくわかっていない!』って、役員に言ってしまって」

安村「で、クビになったと」

ユウタ「はい……でも、おかしいことをおかしいと言って、何が悪いんですかね? 部長も部長ですよ。役員にはヘコヘコしてるくせに、僕らみたいな平社員には偉そうな態度で接してきて。相手によって態度変えるってずるくないですか?」

 酒が入り徐々に饒舌になっていくユウタ。

安村「人は誰しも、相手によって色んな自分を使い分けてる。それはずるくもなんともない、処世術だよ。まだまだ青いねぇ、田中君」

 安村、からかうような口ぶりでニヤニヤしながらユウタに言い放つ。ユウタ、ムッとして言い返す。

ユウタ「やっぱり、安村さんもそういう人なんですね! おかしいと思ったんですよ。今日来た3人は安村さんの話をしていたけど、みんな全然違うことを言ってた。相手を見て、都合のいい自分を演じているんですね。それって、嘘ついてるのと同じじゃないんですか?」

安村「どれも本当の俺だよ。人はみな、多面性を持っているんだ。俺はその振り幅が、人よりちょっと広いだけだよ。
君だって、親に見せる顔と恋人に見せる顔がまったく同じってことはないだろ? でも、どちらも本当の君だ」

ユウタ「まぁ、そう言われればそうですけど……」

安村「自分が今見ているものが、その人のすべてじゃないのは当たり前だよ。それをわからずに人と付き合おうとするから、うまくいかないんじゃないかな」

ユウタ「そう、なのかな……」

 ユウタ、安村の言葉を受けて考え込む。

安村「まぁ、田中君みたいにまっすぐな奴も、世の中には必要だけどね。ただ、生きづらいだろうなぁ、とは思う。もっと気楽に考えていいんだよ。どうでもいい奴には、とりあえず調子を合わせておいて、気の合う奴とだけ本音で付き合えばいい。そっちの方が人生楽しいと思わない?」

ユウタ「そうかもしれませんね……僕は昔から、本音をぶつければ誰とでも分かり合える、と思うところがあって」

安村「誰とでもわかり合えるなんて幻想だよ。時には相手に合わせることも必要だと思う。
……とはいえ、俺は相手に合わせすぎるところがあってね。最初はよかったんだけど、だんだん嘘も混ざるようになってしまった。そこは反省すべき点かな。だから、俺は死ぬことにしたんだ」

ユウタ「え? 死ぬ??」

安村「あ、本当に死ぬわけじゃないよ? 死んだってことにして、俺のことを知っている人が一人もいない場所に行って、一からやり直すことに決めたんだ。それで仏壇や遺影を準備して、君に留守番を頼んだわけ」

ユウタ「えぇ? ちょっと、無茶苦茶すぎませんか……?」

安村「無茶苦茶でいいんだよ。俺さ、昔から海外に住むのが夢だったんだよね。だから、海外に行こうと思ってる。
あれ、いい年して夢追いかけるなんて、こいつバカなのか? って思ってる?」

ユウタ「いえ、そんな……」

安村「でももう決めたんだ。俺は生まれ変わる。周りにバカだと思われても構わない。変わろうと思って動けば、人は変われるんだよ」

ユウタ「……なんだか、安村さんが羨ましいです。すごく自由に生きていて」

 安村の言葉に心が動かされた様子のユウタ。

安村「田中君だって変われるよ! 堅苦しく考えないで、軽やかに生きようよ」

ユウタ「そうですね! なんか安村さんの話聞いてたら、勇気出てきました! ありがとうございます!」

安村「よし! じゃあ改めて乾杯だ!」

 乾杯し、酒を飲み続ける2人。

○シーン6:安村宅にて、翌朝

 2人で飲んだ翌朝、ユウタはソファーで目を覚ます。

ユウタ「あぁ〜頭いてぇ……。飲み過ぎたな」

 あたりを見回すユウタ。しかし、安村の姿はない。仏壇と遺影は片付けられている。
 ユウタ、テーブルの上にメモが置かれていることに気づく。メモには、「このあと最後の訪問者が来るから、留守番よろしく」と書いてある。

ユウタ「どこ行ったんだろ……? まぁいいか」

 寝ぼけ眼でテレビをつけるユウタ。ニュース番組で、安村の顔が大きく映っている。

ユウタ「え?!」

 驚くユウタ、食い入るようにニュースを見つめる。

キャスター「警察は現在、連続女児誘拐・殺人の疑いで、安村隆容疑者を全国に指名手配しています。神奈川県の箱根湯本駅近辺では、女児が行方不明になる事態が相次いで発生していましたが、複数の目撃情報から、安村容疑者が捜査線上にあがりました。現場近くの監視カメラには、安村容疑者が女児の遺体をキャリーケースに詰め込む様子が映っています」

ユウタ「なんだよ、これ……」

 テレビには、箱根の温泉地が映っている。ユウタ、テーブルの上の温泉まんじゅうを見つめたあと、

ユウタ「キャリーケース……?」

 とつぶやいて振り返る。そこには、安村のキャリーケースが。

ユウタ「あれ、待てよ……? 俺昨日、たしか……」

×  ×  ×
(フラッシュ)
 ユウタは酔っぱらい、テーブルにつっぷしていて寝ている。
 安村はビニール手袋をはめ、キャリーケースから包丁を取り出してユウタの肩をそっとゆらし、右手を取る。

安村「田中君、右手貸して?」

ユウタ「え? 手……?」

 突っ伏して目をつぶったまま、言われたとおりに右手を差し出す。
 安村、ユウタの右手に包丁をにぎらせる。
 包丁から手を離してまた眠りにつくユウタを見て、ニヤリと笑う安村。
×  ×  ×

 再びニュース映像。キャスターはよどみなく言葉を続ける。

キャスター「監視カメラの映像には、安村容疑者の他にもう一人男が映っており、警察は複数犯の可能性も視野に入れ、捜査を行っています」

 テレビでは、キャリーケースを持った安村+もうひとりの男が監視カメラの粗い映像(顔が判別できないくらい)で映し出されている。

ユウタ「嘘だろ……?」

 そこで、インターホンが鳴り、驚くユウタ。はっと気付き、テーブルの上の安村からの「このあと最後の訪問者が来るから、留守番よろしく」というメモを見る。

ユウタ「最後の訪問者って……」

 ピンポンピンポンピンポン! と、何度もインターホンが鳴ったあと、ドンドンドン! とドアを叩く音とともに、怒鳴り声が聞こえる。

警察「安村、いるんだろ? 警察だ、開けろ!」

ドンドンドンドン! とドアを叩く音が続き、ユウタの凍りついた顔のアップで<完>