パリの外出制限強化と、非常時だけど「いつもどおり」の日本

先ほど、ネットで偶然ノートルダム大聖堂の写真を見かけて、なんだか切ない気持ちになってしまった。

一昨年、フランスに行った。初めてのヨーロッパ旅行。エッフェル塔に凱旋門、シャンゼリゼ通り、ルーブル美術館、ベルサイユ宮殿にモンサンミッシェル……パリを中心に、5日ほどの短い日程にめちゃくちゃ予定を詰め込んで、色々な場所をまわった。

火災が起こる前の、ノートルダム大聖堂にも足を運んだ。細かい彫刻が施された外観、中には繊細なステンドグラスが至るところにあって、厳かな雰囲気で。本当に、美しかった。

昨年の火災で、ノートルダム大聖堂から黒煙が上がる映像を見たとき、心がひんやりと縮むような気持ちになった。また行きたいね、と家族と何度も言い合ったフランス旅行で訪れた場所が、変わり果てた姿になっている。パリには歴史ある建造物がたくさんあるけれど、すべてが永遠に同じ姿で存在し続けるという訳ではないのだな、と。

昨日から、パリでは外出制限がさらに強化され、これまでは許可されていた日中の運動ができなくなったそうだ。ニュースで見たパリの街は人気がなく、嘘みたいな静けさだった。

先日、パリ在住の作家・辻仁成さんがニュース番組に、「コロナが収束したからと言って、以前とまったく同じ日常が戻ってくるとは思えません。友達とカフェでお茶をしたり、気軽にハグをすることはできなくなるでしょう」と、コメントを寄せていた。

日常は、いとも簡単に失われる。そしてこれは、パリに限った話ではない、とも思う。

辻さんは、ツイッターやブログでパリの現状を綴っている。この記事は、イタリア、フランス、日本のコロナによる死者数の推移をもとにした、日本の今後に関する考察だ。

日本人はマスクの装着を長年習慣化しているし、政府の指示に従うし、清潔好きだから、欧州の増加率がそのまま当てはまるとは思わない。
(滞仏日記「数字からみる、日本のことが本当に心配な理由」より)

記事にはこう書かれているけれど、緊急事態宣言が出された翌日も、通勤時間帯には多くの人が電車を使っていたようだ。ツイッターに投稿された画像を見たけれど、ほぼ平常時と同じじゃない? と思うくらいの混み具合。

プライベートの外出自粛は多くの人が意識しているのではないかと思う。でも、「仕事なら仕方ないよね」という気持ちはどこかにあって、「この状況で仕事なんて行ってられっかァァァァ!!」とストライキするような人もほとんどいない。そして、東京都のテレワーク実施割合は、23.1%とのこと(参照: https://toyokeizai.net/articles/-/342092 )。

日本は法律上、罰則付きの「外出禁止」にはできない。このままいけば、今後も通勤電車は、2mのソーシャルディスタンスを確保するのなんて無理なくらい、混み続けるだろう。

私は現在、外出を伴わない仕事のみ受けている。オンラインで取材をし、自宅で文章を書く。取引先の中にはオンライン対応に移行している企業もあるが、仕事はやはり減っている。外出するのは、食糧や日用品の買い出しの時だけ。帰ったら必ず手を洗う。ドアノブなど手が触れるところは、アルコールティッシュで拭き取る。気にしすぎだったね、大袈裟だったねと、数週間後に笑い話にできたらいいのにと思いながら。

日常を取り戻すのは、いつになるのだろう。そう思うと同時に、この非常事態に、「いつもどおり」に毎朝ぎゅうぎゅうの電車に乗っている方々を思うと、やるせない思いになる。

ぼくと息子はたぶん、日本の3週間先の世界にいるということかもしれない。そこから言えることは、とにかく、今は家から出ないこと、出来る限り人と接触しないこと、心の準備をすることだと思う。今夜はスーパームーンらしいので、ロゼ色の月に手を合わせ、この数字の推移が日本だけ例外で、あてはまらないことをぼくはひたすら祈った。
(滞仏日記「数字からみる、日本のことが本当に心配な理由」より)

いつかまた、日常が戻ってきたら、たくさんの人で賑わうパリに行きたい。