【応募作】テレ東ドラマシナリオ 母親と縁を切りたい女(テーマ:そのさよなら、代行します)

本記事はnote×テレビ東京のドラマ企画「100文字アイデアをドラマにした!」の応募作です。

元となった100文字アイデア

自分に代わって別れを告げてくれるという「さよならメッセンジャー」。
結婚前夜に婚約者に別れを告げたい男、母親と縁を切りたい女、転校する幼馴染に会いに行けない少年など。
さよなら、にまつわる人々のドラマ。

登場人物

高木:さよならメッセンジャー業を営む男。
丸尾ミサト:依頼人。「母親を縁を切りたい」と高木に依頼する。
丸尾由紀子:ミサトの母。夫はミサトが幼い頃に亡くなっており、女手ひとつでミサトと妹を育てた。
丸尾アミ:ミサトの妹。非行に走り、未成年時に飲酒運転で事故死。

あらすじ

 依頼人に代わって別れを告げる「さよならメッセンジャー」業を営む高木。今回の依頼人は「母親と縁を切りたい」と言う丸尾ミサト。「母とは昔から不仲。この度結婚が決まったが、これを機に完全に縁を切りたいのでその旨伝えて欲しい」とのこと。
 高木はミサトの実家へ行き、母親にミサトからのさよならを伝える。母は高木にミサトへの伝言をあずけた。
 完了報告&報酬の受け渡し時に、高木は母親からの伝言をミサトに伝える。動揺するミサトに向かって放った高木のある一言がきっかけで、ミサトは真実を語りだす——。

○シーン1:カフェ

 ミサト、コップの水を一気に飲み干し、ため息。そこへ高木が登場。

高木「丸尾さんですか?」

ミサト「そうです。あなたが、さよなら代行業の人?」

高木「はい、高木と申します。この度はご依頼ありがとうございました」

 高木は席に座りながら、「さよならメッセンジャー」と書かれた名刺を差し出す。その様子に重ねてナレーション。

高木N「『さよならメッセンジャー』。さよならを言えない事情を抱えた依頼人に代わり、別れを告げるのが俺の仕事だ」

高木「あれ、そちらは……?」

 高木、ミサトの手元に目をやる。ミサト、慌てた様子で手元の何かをカバンにしまう。
(※シーン3への伏線。手元はここでは映さず、何をしまったのかわからないように。シーン3の回想シーンで伏線回収)

ミサト「あぁ、これはなんでもないの。ところで、お金を払えばどんな依頼でも請け負ってくれるのよね?」

高木「ええ。今回のご依頼は、『母親を縁を切りたい』とのことですが」

ミサト「そう。これ、実家の住所。ここに母がいるから、私の代わりにさよならを伝えて欲しいの」

 ミサト、実家の住所と母の名前(丸尾由紀子)が書かれた紙を高木に向けて差し出す。

高木「わかりました。ちなみに、差し支えなければ理由をお聞きしたいのですが」

ミサト「今度、結婚するの。相手には、家族はいないって伝えてある。母とは今もほとんど連絡を取ってないんだけど、完全に縁を切りたいのよ」

高木「僕は、依頼人が後悔するような依頼は受けない、というポリシーがあるので、念のため確認ですが……本当に、縁を切っていいんですか?」

ミサト「……母とは、昔から仲が悪くて。幼いころに父親が事故で亡くなったのよ。で、母は女手ひとつで子育て……と思いきや、あの人、一人じゃいられない性格でね。
父が亡くなってしばらくしたら男を家に連れ込んで、そこからはもう最悪。母は彼氏のご機嫌とりに忙しくて、私と妹をほったらかし。生活費も出してもらってたみたい。私はそれが本当に嫌で。母とベタベタして私たちを邪魔者扱いするその男も、一人で生きていくことのできない弱い母も」

高木「妹さんがいらっしゃるんですね」

ミサト「今はもういないんだけどね。死んじゃったの。中学に上がったころに見事にグレちゃって。学校にもろくに行かないで夜中まで遊び歩いてて、何日も家に帰ってこないこともあった。で、飲酒運転で派手に事故って即死。最悪でしょ?」

高木「それは、ご愁傷様です」

ミサト「そしたら、母がものすごく落ち込んじゃって。男にかまけて娘をほったらかしてたくせに、勝手だなって思ったけど、見てたらなんだかかわいそうになってさ。『親より先に死ぬなんて、親不孝な奴だよね』って何気なく言ったの。そしたら、『妹に対してそんな言い方ないでしょ!』ってキレだして。そこから大ゲンカ! そこでもう完全に無理! ってなって。高校卒業してすぐに家を出たの。電話番号もメールアドレスも変えて、住所も知らせてない」

高木「それで、結婚を機に完全に縁を切りたいと……。住所も知らないということは、お母様のほうからは連絡が取れない状態なんですよね? なのにわざわざ、さよならを伝えるんですか?」

ミサト「念のためよ。だから、私の連絡先も絶対に教えないで。もう決めたの。気持ちは変わらないし、後悔もしない。お願いできる?」

 高木、ミサトの目をじっと見つめたあと、うなずく。

高木「わかりました。そのさよなら、代行しましょう」

○シーン2:ミサトの実家

 荒れた家の中を見回しながら、テーブルに座る高木。ミサトの母、丸尾由紀子はコップ(水)を出し、向かいの席について、ぶっきらぼうな様子で高木に話しかける。(由紀子は服装てきとう、髪もボサボサで身なりに気を使っていないようす)

由紀子「それで? ミサトの代理で来たっていうけど、あんたは何者なの?」

高木「わたくし、こういう者です」

 高木は『さよならメッセンジャー』と書かれた名刺を差し出す。

高木「依頼人に代わり、さよならを伝える。それが、私の仕事です」

由紀子「へぇ? まともな仕事じゃなさそうね。まぁいいわ。ミサトとはもうすでに絶縁状態なのよ。連絡先も知らないし、向こうから連絡が来ることもなかった。なのにわざわざ人をよこすなんて、何かあったの?」

高木「ミサトさんは、ご結婚されるそうです。相手方には家族がいないと伝えてあるので、今後あなたとは一切関わりたくない、と」

由紀子「あの子が結婚? 本当に……? そう、あの子がねぇ……」

 由紀子は少し驚いたあと、ぼんやりと無表情で遠くを見つめ、沈黙。その様子を見ながら高木は、

高木「ミサトさんとは、あまり仲がよろしくなかったとか」

由紀子「まぁ、そうね……あの子、あなたにどこまで話したの?」

高木「お父様が早くに亡くなって、お母様とも昔から不仲だった。妹さんが亡くなられた時に大ゲンカをして、そこから絶縁状態だと」

由紀子「あぁ、ひととおり話したのね。じゃあ、私が男を連れ込んでどうこう、なんて話もしたんじゃないの?」

高木「ええ、まぁ」

由紀子「ミサトもアミも……あ、アミっていうのは妹のほうなんだけど、2人とも、あの男のことを嫌ってたからね。まぁ、あの子たちにとっては赤の他人だから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど」

高木「お子さんを2人も抱えて生きていくのは、大変なことですからね。1人じゃ耐えられないことだってあるでしょう」

由紀子「あの時代は、小さい子どもを2人抱えた女を雇ってくれる場所なんて、ほとんどなかった。この辺は田舎だから特にね。
やっと見つけた仕事も、朝から晩まで毎日働いても、自分一人食わせるのがやっと。こんな状態じゃまともに学校にも行かせてやれない。いっそこの子たちを殺して私も死のうか? なんて考えたこともあった」

高木「なるほど。それで、生活費を援助してくれる男性と一緒になった、と」

由紀子「そう。娘を殺すよりはマシでしょ? 非難してくる奴もいたけど、どうでもよかった。だって、そいつらは金なんて出してくれない。私たちのことを助けてくれないのよ。私は娘たちに不自由な思いをさせたくなかった。そのためなら、どんな手でも使おうと思ったの」

高木「でも、ミサトさんはそのせいで寂しい思いもされたようですが」

由紀子「そうね……かわいそうなことをしたと思ってる。ミサトにも、アミにも。アミが不良とつるんで遊び歩くようになったのも、知らない男が入り浸ってる家にいたくなかったなんだろうなって。アミが死んだのは、私のせいでもあるのよ。子どもを守るために好きでもない男に媚売ってたのに、結局そのせいで子どもを失うことになって。
アミが死んでからの私は、精神的に参ってしまってね。そんな私を面倒に思って、男は逃げてった。励まそうとしてくれたミサトとも、喧嘩をしてしまって」

高木「ミサトさんは、『親より先に死ぬなんて親不孝な奴だ』と言ってしまった……とおっしゃってましたね」

由紀子「そう。アミに対して申しわけないと思っていたから、親不孝な奴、って言葉にカチンときてしまって……」

 由紀子、ふと考え込み、黙り込んで遠くを見つめる。高木、その様子を訝しがりながら、

高木「あの、どうかされましたか?」

由紀子「いえ、あの……ミサトは、元気なの? 何か変わった様子はなかった?」

 突然話題が変わり、すこし驚いた様子で言葉を返す高木。

高木「え? はぁ、一度お会いしただけですが、特に変わった様子はありませんでしたが」

由紀子「そう……。それなら、いいんだけど。あの子は、辛いことを一人で抱え込むところがあるから」

 由紀子、何かを考えている様子で黙り込む。高木は席を立ちながら、

高木「では、私はそろそろ」

由紀子「あの! ミサトに伝えていただけませんか? あなたのことは、親孝行な娘だと思っているって。……もしもこの先、何があったとしても」

 毅然とした口調でそう語る由紀子の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。高木はじっと由紀子の目を見つめたのち、口を開く。

高木「わかりました。必ず伝えます」

○シーン3:カフェ

 カフェの席で向かい合わせに座る2人。高木は紙を差し出す。

高木「お母様に、さよならを伝えてきました。こちら、完了報告書です。お母様のサインもいただいています」

ミサト「ありがとうございます。じゃあ、報酬をお渡ししますね」

 ミサト、封筒をカバンから出し、高木に差し出す。

高木「ありがとうございます。それと、お母様から伝言をあずかっています」

ミサト「……何?」

 怪訝な顔のミサト。

高木「『あなたのことは、親孝行な娘だと思っている。もしもこの先、何があったとしても』とのことです」

 ミサト、その言葉を聞いて固まる。動揺を隠せない様子で、無言になる。コーヒーを一口飲み、ため息をつきながら、つぶやく。

ミサト「そう……」

 高木、その様子をじっと見つめながら、ミサトに聞く。

高木「ところで、あなたはあとどのくらい生きられるんですか?」

 驚いた表情で高木を見るミサト。しばらく見つめたあと、

ミサト「……どうして、それを?」

高木「あなたと同じ薬を、友人も飲んでいたんです」

×  ×  ×
(フラッシュ)
 シーン1の冒頭を別視点で。高木との待ち合わせ前にカバンから薬のシート(赤などわかりやすい色のもの)を取り出し、一粒出して水で飲む。手元には薬のシートが置いたままになっている。
 高木が現れ、挨拶しながら席につく。

高木「ええと、そちらは?」

 高木、ミサトの手元にある薬を見る。ミサト、慌てた様子でそれをカバンにしまう。

ミサト「あぁ、これはなんでもないの」
×  ×  ×

ミサト「そう……ちなみに、お友達はその後どうなったの?」

高木「……おととし、亡くなりました」

 ため息をつくミサト。少し気が抜けた、ほっとしたような表情になる。

ミサト「そっか。私は、もって一年、早ければ数ヶ月。医者にはそう言われたわ」

高木「結婚するというのは?」

ミサト「嘘よ。もうすぐ死ぬのに、するわけないじゃない」

高木「なぜ、わざわざお母さんに嘘を?」

ミサト「妹が亡くなった時、母はひどく落ち込んでしまったの。食事も食べず、眠りもしないで、一日中妹の遺影を見つめて泣いていたわ。あんな状態には、もうしたくないの」

高木「だから、病気のことを隠すために、嘘を伝えた……」

ミサト「母のことは嫌いだったけど、私や妹のことを大事に思ってくれているのは、気づいてた。母は、『女の幸せは結婚して家庭を持つことだ』って考える古いタイプの人間だから、結婚して幸せに暮らします、だからもう連絡を取らないでって言えば、納得してくれると思って」

高木「本当にそれでいいんですか?」

ミサト「いいのよ。あなたに依頼した時点で、もう決意は固まってたの。私はもう、母とは会わない」

 しばし沈黙。

高木「少し、僕の昔話を聞いてもらえますか?」

ミサト「いいわよ、何?」

高木「僕の友人……あなたと同じ薬を飲んでいた友人の死がきっかけで、僕はさよならメッセンジャーを始めたんです」

ミサト「え?」

高木「友人には婚約者がいましたが、病気のことを隠していました。もともと遠距離だったので、『仕事が忙しい』なんて嘘をついて、会う頻度を減らしつつ、治療を進めていたんです。でも結局、治らなくて。
亡くなる直前、彼に呼び出されました。そして、言われたんです。『彼女に、他に好きな人が出来たからもう会う気はないと伝えてくれないか?』と」

ミサト「病気のこと、伝えなかったの? どうして?」

高木「僕も彼に聞きましたよ。伝えなくていいのか? って。そしたら、『結婚まで考えた男に死なれるなんて辛いだろ。それなら、ひどい男だと恨まれたほうがいい』と言ったんです」

ミサト「そんな……」

高木「彼が亡くなったあと、彼女にそのことを伝えに行きました。彼女は相当怒ってましたよ。彼をここに連れてこい、連絡先を教えろ! って。当然ですよね。
彼女はずっと泣きながら怒っていました。どうして? と何度も言って。でも、僕は彼が死んだことを言わなかった。彼と約束したからです」

 しばし沈黙。

ミサト「……彼女はそのあと、幸せになれたのかしらね」

高木「さぁ。彼女がどうなったのかは、知りません。僕は今でも、あの時の自分の行動が正しかったのかどうか、わからない。でも少なくとも、友人の希望を叶えることはできた。それは意味のあることなんじゃないかな、と。さよならメッセンジャーを始めたのは、その時からです」

 考え込む様子のミサトに向かって、高木は言う。

高木「さよならを言えない人の代わりにさよならを伝えるのが、僕の仕事です。でも、あなたはまだ生きている。さよならを言えるじゃないですか」

ミサト「でも、私が死ぬことを知ったら、母がまた悲しむことになるのよ? 私まで親不孝な娘になるわけにはいかない」

高木「『親より先に死ぬなんて、親不幸な奴だ』。この話が出たとき、お母様は動揺されてましたよ」

 黙るミサト。ミサトをじっと見つめる高木。

高木「お母様は、あなたの嘘に薄々気づいているんじゃないですか? そして、あなたもそのことに気づいている」

ミサト「それは……」

 動揺を隠せない様子のミサトに、高木は言い放つ。

高木「人はみんな死ぬんだから、親より先か後かなんて大した問題じゃありませんよ。どうせ死ぬなら、残された時間を有意義に使った方がいいんじゃないですか?」

 しばし沈黙ののち、長いため息をつくミサト。

ミサト「……人はみんな死ぬ。たしかに、そうね」

 ミサト、ふっきれたような表情で、

ミサト「母に会うわ。どうせ死ぬんだから、最後にケンカでもしてくるか」

 ミサト、荷物を片付け、立ち上がる。

ミサト「ありがとう」

 そう言って立ち去るミサト。
 高木、ミサトが店の外に出たあと、カバンからミサトと同じ薬を取り出し、口に入れ、ごくごくと水で飲み下す。

高木「どうせ死ぬなら、残された時間を有意義に使いたいもんだ」

 ぽつりとつぶやく。そこへ、次の依頼人が現れ、声をかけてくる。

依頼人「あの、さよなら代行業の方ですか?」

高木「そうです。ご依頼ありがとうございます。どうぞ、こちらへ」

 向かいの席に座るよう促し、依頼人が席につく。2人で会話している(セリフなし)シーンで、<完>